第52回赤門コラム

悪い姿勢や、同じ作業を繰り返すなどの偏った動作を長時間続けていると、不必要な負担がカラダの一部分に集中して筋肉が固まり、それにともなって筋膜も自由度を失います。そうなると筋膜はよじれてこわばり、筋膜の上にある皮膚と筋膜の下にある筋肉がそれぞれ動きづらくなります。

つまり、ひとつの筋肉を包む筋膜に問題が生じると、その上にある全身の筋肉を包む筋膜に波及し、筋膜のつながりを介して他の筋肉へ問題が伝播していきます。

その結果、その配列上のすべての筋膜の動きや働きに影響をおよぼして十分な筋力を発揮できなくなり、柔軟性も悪くなって、スポーツではパフォーマンスの低下を引き起こします。そのことが、ひいてはケガを引き起こす要因ともなります。

また、そうした筋膜のよじれやこわばりは、カラダのこりやはり、痛みの症状にあらわれます。この筋膜の機能異常の厄介な点は、その異常を他の部分でかばおうと代償を生じさせること。ある部分の筋膜のよじれやこわばりが深筋膜から広範囲に広がってしまうことで筋膜自体が自力でほぐれることができなくなり、正しい姿勢や動作が制限されてしまうのです。

筋肉がスムーズに動くためには、筋膜の滑りの良さが必要です。「筋膜リリース」を行うことにより、筋肉の柔軟性を引き出し、関節の可動域を拡大します。

リリースとは「制限を解除する」「解きほぐす」という意味を持つ言葉です。つまり「筋膜リリース」とは、筋膜の委縮・癒着を引き剥がしたり、引き離したり、こすったりすることで、正常な状態に戻すことを言います。筋膜リリースがときに「筋膜はがし」と翻訳されて呼ばれる理由もここにあります。

筋膜は、筋肉を包んでいる膜で、身体全体にはりめぐらされています。筋線維や器官、神経などとも連結していて三次元的に全身を覆っており、第二の骨格とも呼ばれています。

筋膜は層になっており、すべての筋組織はお互いに滑りあうように動きます。筋膜には筋肉を保護する作用や筋収縮時の滑りを助ける作用などの機能があります。

筋膜に機能異常がみられると、本来はサラサラの水溶性の基質が粘度の高い状態になり、筋膜全体の滑りが悪くなります。また、筋膜は全身につながっているので、ほかの筋肉や筋線維にまで動きの悪さが波及し、痛みや筋力の低下、柔軟性の低下、運動パフォーマンスの低下、日常生活動作の低下がみられるようになります。

非対称な姿勢や動作をとり続けることや同じ姿勢を長時間とり続けること、怪我などによって身体の一部に負担がかかり、身体がアンバランスな状態となると筋膜が自由に動けない状態になります。すると筋膜のよじれが生じて筋膜と皮膚・筋肉との間の滑らかな滑りが失われます。

「筋膜リリース」を行うことにより、筋膜のねじれやよじれが元に戻ると、筋肉や筋繊維を包む筋膜に柔らかさと弾性が復活し、筋力が正しくスムーズに動くようになります。

(専任教員)小原賢